十八史略012巻一夏:夏后氏禹(2)

儀狄酒を作る

十八史略・原文

聲爲律、身爲度、左凖繩、右規矩。一饋十起、以勞天下之民。出見罪人、下車問而泣曰、堯舜之人、以堯舜之心爲心。寡人爲君、百姓各自以其心爲心。寡人痛之。古有醴酪。至禹時、儀狄作酒。禹飮而甘之曰、後丗必有以酒亡國者。遂疏儀狄。收九牧之金、鑄九鼎。三足象三德。以享上帝鬼神。會諸侯於塗山。執玉帛者萬國。禹濟江。黃龍負舟。舟中人懼。禹仰天歎曰、吾受命於天、竭力而勞萬民。生寄也、死歸也。視龍猶蝘蜓。顏色不變。龍俛首低尾而逝。南巡至會稽山而崩。

十八史略・書き下し

声は律と為り、身ははかりと為り、準縄を左にし、規矩を右にす。

一饋に十たび起ちて、以て天下之民を労う。出でて罪人を見ば、車を下りて問う而泣きて曰く、尭舜之人、尭舜之心を以て心と為す。寡人の君為るや、百姓各の自ら其の心を以て心を為す。寡人之を痛むと。

古醴酪有り。禹の時に至りて、儀狄酒を作る。禹、飲み而之を甘しとして曰く、後世必ず酒を以て国を亡ぼす者有らんと。遂に儀狄をながす。

九牧之金を収めて、九鼎を鋳る。三足は三徳を象る。以て上帝鬼神にう。

諸侯と塗山於会う。玉帛を執る者万国なり。

禹江を済る。黄竜舟を負う。舟中の人懼る。禹天を仰ぎて歎きて曰く、吾れ天於命を受く、力を竭し而万民を労う。生は也、死もまた也。竜を視ること猶おエンテイのごとし。顔色変わら不。竜首をし尾をれて逝く。

南巡会稽山に至り而崩ず。

十八史略・現代語訳

禹の声はそのまま音階となり、体は物差しとなり、水準器と墨縄を左手にし、コンパスと直角定規を右手に持った。

一回の食事ごとに十たびも知らせに席を立ち、それで天下の民をねぎらう政治を行った。外出して罪人を見ると、車を下りて声を掛けてやり、泣きながら言った。「尭や舜の時代の人は、尭舜の思いをそのまま自分の思いとしたので、罪を犯す者がいなかった。しかし私が王位に即くと、人々はそれぞれ自分勝手な欲望を思うようになった。私はこれを痛ましく思う。」

太古の時代は甘酒と発酵乳を飲んだ。禹の時代になると、儀狄が初めて酒を作った。禹は飲んでうまいと思ったが、「後世必ず、酒で国を滅ぼす者が出るだろう」と言った。そこで儀狄を流刑にした。

全土九つの州の総督から、青銅を献上させて、九組の鼎を鋳た。その三本の足は、正直・剛克・柔克の三徳を象徴している。この鼎で、天の神や大地の精霊や亡霊にお供えをした。

諸侯と塗山で会見した。玉や絹布を携えて服属を願った国は万国に上った。

禹が長江を渡った。すると黄いろい竜が浮かんできて、背中で舟を持ち上げた。舟に乗った人が怖がった。禹は天を仰ぎ見て、嘆いて言った。「私は天から人界を治める命令を受けた。力の限り万民をいたわった。生とは寄り道のキ、死もまた帰るのキである。恐れることはない。」竜を見てもヤモリのように驚かず、顔色を変えもしなかった。すると竜は首を垂れ、尾を垂れて行ってしまった。

南方の巡察が、会稽山まで及んだ所で世を去った。

十八史略・訳注

規矩:規はコンパス、矩はノギス。
規矩

塗山:寿春(現安徽省淮南市)の東北にあった国といわれる。

執玉帛:林本によると、「玉」は大諸侯が持つもので、「帛」は小諸侯が持つ玉にしく布。「執」は持参して献上する意。

龍:想像上の動物と思いきや、ヨウスコウワニの象形と思われる。
龍 甲骨文 ヨウスコウワニ
(甲骨文)

もちろん本章は創作だから、話そのものは実話ではない。

生寄也、死歸也:語呂合わせ表現なのだが、『学研漢和大字典』による二つの文字の音の変遷(上古-中古-元-北京語(ピンイン))は、寄がkıar-kıě-ki-tši(jì)、歸(帰)がkıuər-kıuəi-kuəi-kuəi(guī)であり、一致していない。カールグレンによる上古音も、寄kia、歸ki̯wərであって異なっている。

蝘蜓:音エン・テイ。とかげの類の総称。蝘は「虫+(音符)匽(エン)(ふせてかくれる)」の会意兼形声文字。蜓は「虫+(音符)廷(テイ)(まっすぐのびる)」の会意兼形声文字。胴体が直線状にのびた虫。

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