十八史略002巻一三皇:太昊伏羲氏・女媧氏・炎帝神農氏

三皇
太昊伏羲氏・女媧氏・炎帝神農氏

十八史略・原文

太昊伏羲氏風姓。代燧人氏而王。蛇身人首、始畫八卦、造書契、以代結繩之政。制嫁娶、以儷皮爲禮。結網罟、敎佃漁。養犧牲、以庖廚。故曰庖犧。有龍瑞。以龍紀官、號龍師。木德王。都於陳。

庖犧崩、女媧氏立。亦風姓、木德王。始作笙簧。諸侯有共工氏。與祝融戰、不勝而怒。乃頭觸不周山。崩。天柱折、地維缺。女媧乃鍊五色石以補天、斷鰲足以立四極、聚蘆灰以止滔水。於是地平天成、不改舊物。

女媧氏沒、有共工氏、太庭氏、柏皇氏、中央氏、歷陸氏、驪連氏、赫胥氏、尊盧氏、混沌氏、昊英氏、朱襄氏、葛天氏、陰康氏、無懷氏。風姓相承者十五世。

炎帝神農氏、姜姓。人身牛首、繼風姓而立。火德王。斲木爲耜、揉木爲耒、始敎畊、作蜡祭。以赭鞭鞭草木、甞百草始有醫藥。敎人日中爲市、交易而退。都於陳、徙曲阜。傳帝承、帝臨、帝則、帝百、帝來、帝襄、帝楡、姜姓凡八世、五百二十年。

十八史略・書き下し

コウ氏、姓はフウたり。燧人氏に代り而王たり。身は蛇にしてこうべは人、始めて八卦を画き、書契もんじを造り、以て縄結び之政に代わりぬ。嫁娶りをさだめ、ついなす皮を以て礼と為す。網を結いて、かりすなどりを教う。犠牲を養い、庖厨にもちう。故に庖犠とも曰う。竜のさち有り、竜を以て官をしるし、竜師とよばう。木徳の王たり。陳都す。

庖犠崩し、女媧氏立つ。亦た姓は風たり、木徳の王たり。始めて笙コウを作る。諸侯に共工氏有り。祝融戦いて、勝た不し而怒る。乃ち頭不周山に触れ。崩る。天柱折れ、地維れたり。女媧乃ち五色の石を錬り以て天を補い、鰲の足を断ち以て四極を立て、芦の灰を聚めて以て滔水を止む。是に於て地平らかに天成りたり、旧物を改め不。

女媧氏没し、共工氏、太庭氏、柏皇氏、中央氏、歴陸氏、驪連氏、赫胥氏、尊盧氏、混沌氏、昊英氏、朱襄氏、葛天氏、陰康氏、無懐氏有り。風姓相承くる者十五世なり。

炎帝神農氏、姓は姜たり。身は人にして首は牛たり、風姓を継ぎ而立つ。火徳の王たり。木をりてすきを為り、木をめてすきを為り、始めてたがやしを教え、祭を作す。赭鞭を以て草木をち、百草を嘗めて始めて医薬をつくる。人に教えて日中市を為し、交易し而退かしむ。陳於都し、曲阜に徙る。帝承、帝臨、帝則、帝百、帝来、帝襄、帝楡に伝えて、姜姓すべて八世、五百二十年なり。

十八史略・現代語訳

太昊伏羲氏は姓が風だった。燧人氏に代わって王となった。体は蛇で、頭が人だった。

初めて八卦を描いた。文字を作り、縄の結び目を使って記録した政治に取って代わった。婚姻の制度を定め、鹿の革二対一組を結納品にした。網を作り、人々に狩猟と漁業を教えた。犠牲の動物を飼い、料理して先祖に供えることを始めた。だから庖犠ともいう。

在世中、黄河から八卦図を背負っためでたい龍馬が現れた。そこで官職を龍の名で呼び、長官を竜師と名乗らせた。木の力によった王だった。陳に都を置いた。

庖犠が世を去って、女媧氏があとを継いだ。やはり姓は風であり、木の力によった王だった。初めて笛を作った。

配下の諸侯に共工氏がいた。祝融と戦って、勝てずに怒った。そこで頭を不周山にぶつけた。山が崩れた。山に立っていた天を支える柱が折れ、地をつなぎ止める綱が千切れた。〔天が裂けて大洪水が起きた。〕

女媧は五色の石を練り潰して天をつくろい、大亀の脚を切って大地の四隅に立て、芦の灰を集めて洪水を防いだ。こうして地は平らに、天は落ち着き、元の世界に戻った。

女媧氏が没した。共工氏、太庭氏、柏皇氏、中央氏、歴陸氏、驪連氏、赫胥氏、尊盧氏、混沌氏、昊英氏、朱襄氏、葛天氏、陰康氏、無懐氏が順にあとを継いだ。風姓を名乗る者が十五代続いた。

炎帝神農氏は、姓は姜だった。体は人で頭は牛だった。風姓を継いで王になった。火の力によった王だった。

木を木ってすきを作り、木を曲げて掘り棒を作った。初めて人々に耕作を教え、年末の祭を行った。赤い鞭で草木を叩き、さまざまな草を口にして効き目を調べ、薬を作った。人に教えて昼間は市場を開かせ、品を交換させて帰らせた。

陳に都を置き、のち曲阜に移った。その後王位は帝承、帝臨、帝則、帝百、帝来、帝襄、帝楡に受け継がれ、姜姓は全部で八代、五百二十年続いた。

十八史略・訳注

三皇:古代中国の伝説上の三人の皇帝。伏羲・神農・女媧のこと。一説に、燧人・伏羲・神農のこと。また、天皇・地皇・人皇のこととも。その他、異説がある。

太昊:太は”はなはだ”、昊は「日+天」で、太陽のあかるい空のこと。

伏羲:古代、伝説上の帝王。はじめて人々に漁猟を教え、文字をつくったという。庖犠(ホウギ)・包犠(ホウギ)・羲皇(ギコウ)・蒼和(ソウカ)・蒼牙(ソウガ)とも。
伏羲 伏羲 女媧
南宋・馬麟画「伏羲」(左)。女媧と夫婦だったという神話もある(右)。

氏・姓:氏は中国で、同じ女性先祖から出たと信じられた古代の部族集団(=姓)のうち、住地・職業、または兄弟の序列などによってわかれた小集団のこと。また、その小集団の名の下につけることば。父系集団を意味するローマの氏(gens)とは異なる。

八卦:周易の八種の卦、乾(ケン)・兌(ダ)・離・震・巽(ソン)・坎(カン)・艮(ゴン)・坤(コン)のこと。この中の二つずつを組みあわせて六十四卦とし、森羅万象を象徴させて、吉凶禍福を占う。
八卦

書契:文字。「契」は、小刀で彫りつけること。昔、骨や、木に彫りつけて記録したことから。

結繩:昔、文字のなかったころ、文字のかわりになわを結んで約束のしるしとした。

嫁娶:婚姻の制度。

儷皮:=麗皮。雌雄一対の鹿の皮。元服の祝いや、婚礼の結納に用いた。

網罟:=罔罟。網。「罟」は、しかけあみ。

佃漁:=畋漁。鳥・獣をとること(=佃)と、さかなをとること(=漁)。佃は会意兼形声文字で、つくりの田は、平らにならして区画を切った田畑を描いた象形文字。佃は「人+(音符)田(デン)・(テン)」で、田を耕す人を示す。田からの派生語。転じて狩りをすること。さかなを魚というのに対して、さかなをとる人を漁家というのと似ている。

庖廚:料理場。台所。ここでは転じて、料理すること。

龍瑞:黄河からめでたい竜馬が八卦図を背負って現れたというめでたい出来事。
龍馬

陳:国名。周・春秋時代、今の河南省淮陽(ワイヨウ)県を中心とした地にあった。周代に帝舜(シュン)の子孫が封ぜられた地といわれる。春秋時代の末に楚(ソ)に滅ぼされた。

女媧:中国古代の伝説上の女帝。媧は「女+(音符)咼(カ)(あな)」。陰部に穴のある女性。

笙簧:簧を笛の舌(=リード)と解する場合もあるが、ここでは笙も簧も、笛の一種。

天柱・地維:天を支える柱と、地をつなぎ止める綱。

缺:=欠。決壊の決に通じ、切れること。

炎帝神農氏:古代、伝説上の帝王。三皇のひとり。はじめて人民に農業を教え、医薬をつくり、の六四のコウをつくったという。五行の火の徳により王であったことから、炎帝とも、烈山氏・大庭・田祖とも。
神農

斲:音タク。切る。

耜:土を耕すすき。

耒:土を耕す掘り棒。

畊:=耕。農業。

蜡祭:年末の祭。蜡はうじ虫の意味もあるが、ここでは周代の年末祭の名。同じ祭を夏は清祭、殷は嘉平、秦では臘という。

有:読みの一つに、為と同意とする解がある。

曲阜:のち魯の国都が置かれた現山東省のまち。

帝承…:殷代まで、中国語には被修飾語→修飾語の語順が見られ、その一例。

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