十八史略・巻六北宋:仁宗(19)

王安石・司馬光登場

十八史略・原文

王安石知制誥。安石每遷官、遜避不已、至知制誥、則不復辭官矣。安石甞侍賞花釣魚宴、誤食鈎餌。已悟而食之旣。上以其不情而遂非惡之。安石有重名。士爭向之。惟蘇洵不見、著辨姦論、亦以爲、不近人情、必大姦慝。

司馬光知諫院。進三箚。一論君德有三。曰仁、曰明、曰武。二論御臣。曰任官。曰信賞。曰必罸。三論揀軍。又進五規。曰保業。曰惜時。曰遠謀。曰謹微。曰務實。

十八史略・書き下し

王安石知制誥たり。安石官を遷す毎に、遜り避けて已ま不るも、知制誥に至り、則ち復た官を辞せ不る矣。

安石嘗て花を賞で魚を釣る宴に侍りて、誤りて鈎の餌を食う。已に悟り而之を食うことつくしぬ。上其の情なら不し而非を遂ぐるを以て之を悪む。

安石重き名有り。士争いて之に向う。惟だ蘇洵のみ見え不、弁姦論を著し、亦た以為く、人情に近から不、必ず大姦慝ならんと。

司馬光知諌院たり。三箚を進む。一に君徳の三有るを論ず。曰く仁、曰く明、曰く武。二に臣を御するを論ず。曰く任官。曰く信賞。曰く必罰。三に軍をえらぶを論ず。

又た五規を進む。曰く業を保つ。曰く時を惜しむ。曰く遠く謀る。曰くかすかを謹む。曰く実に務む。

十八史略・現代語訳

王安石が、詔勅の原案を調える知制誥に任じられた(1061)。王安石は官職を変わるたびに、しきりに謙遜したが、知制誥になったとたん、二度と官職を辞退しなくなった。

王安石は以前、花を賞で魚を釣る宮廷の宴に参加して、間違って釣り餌を食べてしまった。しかし間違いと気付いても、そのまま最後まで食べてしまった。皇帝は王安石の不人情と、間違っても改めない強情を見て取って、嫌った。

王安石は世間の評判が高かった。だから官僚とその予備軍は争って王安石と付き合いたがった。ただ蘇洵だけが、会おうとしなかった。かえって「弁姦論」(悪党の判別法)を書き著し、王安石は不人情で、必ず大悪党に違いないと思った。

司馬光が皇帝を諌める役所である諌院の長官に任じられた(1061)。そこで三箇条の意見書を提出した。その第一に、君主の身につけるべき技能に三つあることを論じた。すなわち仁(思いやり)、明(洞察力)、武力。第二に、臣下を統率する道を論じた。すなわち任官、信賞、必罰。第三に、軍人に適材を選ぶことを論じた。

また五箇条の戒めを提出した。すなわち君主の務めを維持すること、時を惜しむこと、遠い先まで考えること、細かなことにも気を配ること、効果のある仕事に精を出すこと。

十八史略・訳注

王安石:1021-1086。
王安石

知制誥:中書省に所属し、皇帝の命令書である制・誥の草案を作る役職。

鈎:音コウ。鉤(カギ・釣り針)の俗字。

蘇洵:1009-1066。
蘇洵

司馬光:1019-1086。
司馬光

知諌院:皇帝の諌め役である諌院の長官。宋初は門下省が諌院を兼ねたが、仁宗の明道元年 (1032) 年に諫官陳執中が院の設置を請い、門下省から独立した。

箚:音サツ。下の者から上の者にさし出す文書の一種。転じて、ある事がらについての短い報告文や感想文。

十八史略・付記

北宋政界を代表する千両役者の登場。王安石と釣り餌の話は、『宋史』王安石伝には見えず、宋の邵博温の『邵氏聞見録』にある。

仁宗朝、王安石為知制誥。一日、賞花釣魚宴、内侍各以金楪盛釣餌藥置几上、安石食之盡。明日、帝謂宰輔曰:『王安石詐人也。使誤食釣餌、一粒則止矣;食之盡、不情也。』帝不樂之。後安石自著《日録》、厭薄祖宗、於仁宗尤甚、每稱漢武帝其心薄仁宗也。故一時大臣富弼、韓琦、文彦博、皆為其詆毁云。(巻二)

これによると王安石の強情を嫌った帝は仁宗とわかるが、話が出来すぎており、ウソかマコトか紛らわしい。本文の派閥争いに見られるように、士大夫はこの程度のでっち上げは平気でやるからだ。

なお「已悟而食之」について。

旡欠を反対にしたのが次の字形51の字〔〕である。これは欠とは反対に、人間が腹をふくららませて、ウーンとばかり後ろにのけぞっている姿を表している。だから後世の既(キ・カイ)の原字であると考えてよい。

既の左側は良(=粮食の粮)の変形したもので、おいしい御飯を意味する。だから既とはおいしい御飯をたらふく食べて、ウーンと後にのけぞった形である。中国の古典に<既食礼>というのがあるが、それはお客にじゅうぶんに接待を尽くして、たら腹ごちそうを食べさせる作法という意味である。

既日蝕や月蝕のさい、日や月が完全に食い尽くされてしまうのを皆既食というのは御承知の通りだ。既とは腹いっぱいに食い尽くすことである。食い尽くせば、残りはない、すべて終了である。従って既は「すでに終わった」という意味の副詞に転じてくる。人々は既を「スデに」と訓じることだけを知っていて、なぜこの副詞が生じたかを考えてもみない。残念なことだ。(藤堂明保『漢文入門』)

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