金国勃興す
十八史略・原文
遼主弘基殂。號道宗。孫延禧立。號天祚。
女眞阿骨打立。女眞本名朱里眞、肅愼之遺種、而渤海之別族也。或曰、本姓拏、辰韓之後、三國志所謂挹婁、元魏所謂勿吉、唐所謂黑水靺鞨者其地也。有七十二部落、本不相統。自太中祥符以後、絕不與中國通。有生女眞者。其類猶繁。其酋曰巖版。有孫曰楊哥太師、遂雄諸部。或曰、楊割之先、新羅人完顏氏、女眞妻之以女、生子二人。長曰胡來、傳三人而至楊割。阿骨打其子也。爲人沈毅有大志。
十八史略・書き下し
遼主弘基殂く。道宗と号う。孫の延禧立つ。天祚と号う。
女真の阿骨打立つ。女真本の名は朱里真、粛慎之遺種、し而渤海之別族也。
或いは曰く、本姓拏、辰韓之後、三国志の所謂る挹婁、元魏の所謂る勿吉、唐の所謂る黒水靺鞨者其の地也と。
七十二部落有り、本と相い統べ不。大中祥符自り以後、絶えて中国与通じ不。生女真なる者有り。其の類猶も繁し。
其の酋を巌版と曰う。孫に楊哥太師と曰う有り、遂に諸部に雄る。
或いは曰く、楊割之先は、新羅人完顔氏にして、女真之に妻すに女を以てし、子二人を生む。長を胡来と曰い、三人に伝え而楊割に至る。阿骨打其の子也と。
人と為り沈毅にして大志有り。
十八史略・現代語訳
遼の君主だった弘基が世を去った。道宗とおくり名した(1101)。孫の延禧が即位した。これを天祚と呼ぶ。
女真の阿骨打が族長になった(1113)。女真は、元の名を朱里真といい、粛慎の末裔であり、渤海とは同族である。
一説には、元の姓を拏といい、辰韓の末裔で、三国志に記された挹婁、北魏がそう呼んだ勿吉、唐がそう呼んだ黒水靺鞨の地である。
七十二の部族に分かれ、元は統一されていなかった。(宋の真宗の)大中祥符年間(1008-1016)以後は、中国との交流を断っていた。その中に生女真という集団があり、それらが最も数を増やしていた。
生女真の酋長に巌版という者がいた。孫に楊哥太師という者がいて、この者の代になってやっと女真族の内で優位に立った。
一説には、楊割の祖先は新羅人の完顔氏であり、女真人が酋長の娘を妻合わせ、子を二人生んだ。長子を胡来といい、それから三代下って楊割の代になった。阿骨打はその子である。
阿骨打は人柄が落ち着いて勇敢であり、大きな望みを持っていた。
十八史略・訳注
遼:契丹族の王朝。916-1125。
弘基:=耶律弘基。1032-1101。遼の道宗。位1055-1101。
延禧:耶律阿果。1075-1125。遼の天祚帝。 金を建国した完顔阿骨打と戦って敗れ、遼を滅亡させた。位1101-1125。
女眞:=ジュルチン。満洲人とも。1115年に金を建国して遼から独立した。以下wikipediaより引用。
女真は満洲に居住していた黒水靺鞨と呼ばれた集団の、彼ら自身の自称を当て字したものとされる。主に農耕・漁労・牧畜・狩猟に従事し、中国との間で朝鮮人参・毛皮を貿易していた。黒水部・粟末部など様々な部族が在り、長く統一される事がなかった。また10世紀後半から11世紀に掛けて頻発した高麗軍の入寇のうち、1019年の刀伊の入寇において対馬、九州の大宰府を襲った「刀伊」(朝鮮語で外様を意味する)という海賊集団は、女真系の一部族が主体だったと考えられている。刀伊の構成員については高麗人や契丹人なども混じっていたと言われるが詳細は不明である。
歴史に現れて以来、遼(契丹)に従っており、中国化の度合いによって熟女真と生女真の2大集団に分かれていた。
女真(ジュルチン)の民族名については、彼らの言葉で「人々」や「民」を意味する言葉とされる。漢人がこの地の人々に「お前たちは何者だ」と問うたところ、「人々(ジュルチン)だ」と答えたことから「女真(ジュルチン)」という漢字を当てられたのだという。
阿骨打:=完顔阿骨打。音ワン・ヤン・ア・ク・ダ。完顔が部族名で名が阿骨打。1068-1123。金の太祖。位1115-1123。
肅愼:周から晋にかけて満洲から沿海州に住んだ民族。
渤海:698-926。高句麗(BC1C-668)の遺族が満洲から沿海州にかけて立てた王朝。その開祖である大祚栄は、靺鞨の一部族粟末靺鞨の首領で、唐に認められて渤海国を建てた。
辰韓:BC2C-356。のちの新羅(BC57-935)の地にあった国。
挹婁:音ユウ・ロウ。1C-4C。満洲から沿海州にかけて住んだ民族。
元魏:=北魏。386-534。帝室の姓が元なので元魏ともいう。
勿吉:音モツ・キツ。満洲から沿海州にかけて住んだ民族の、中国南北朝時代の呼称。
黑水:靺鞨の一部族。
靺鞨:音マツ・カツ。満洲から沿海州にかけて住んだ民族の、唐代の呼称。
太中祥符:=大中祥符。1008-1016。宋真宗の三番目の年号。林本は「太」と書く。
生女眞:女真人のうち、中国との接触が濃密で従順な部族を熟女真、関係が薄く従わない部族を生女真と中国側が呼んだ。
楊割:阿骨打の父。世祖ガリベチ。
完顏氏:のちに満洲人の一部族であるワンギヤ部になったという。